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~外国人雇用の現場から~Vol.4 育成就労では転職が多発するのか⁉

育成就労では転職が多発するのか⁉

外国人の職場定着への関心が高い

最近、自治体から外国人の職場定着について相談を受けることが多い。「技能実習が終わるとみんな東京に行ってしまう」とか「特定技能の外国人はすぐに転職してしまう」ということらしい。

さらに不安にさせる材料として、技能実習が廃止となり育成就労が新設されることがある。このニュースは最近、テレビや新聞でよく話題になった。「転職禁止の技能実習」から「転職自由の育成就労」に変わる。地域の雇用や産業が守れないのではないか、そう危機感を抱く自治体は多い。

▼改正法の概要(育成就労 制度の創設等)
出典:出入国在留管理庁https://www.moj.go.jp/isa/content/001415280.pdf

技能実習生は現在、日本全国で約40万人働いている。いまや地方で労働力不足を補う貴重な存在だ。30年以上も続いたこの制度が3年後に廃止になるのだから、地方にとってはたしかに大きな出来事である。転職自由の育成就労に対する不安もよく分かる。

育成就労で労働市場が荒れることはないだろう

育成就労では転職が横行するのか。このことは育成就労についての有識者会議でも随分と議論された。「技能実習の転職制限を外すとブローカーが横行し、外国人労働者の雇用環境はめちゃくちゃになる。一定の転職制限を掛けるのは外国人労働者のためなのだ!」みたいな意見もあった。(少なくとも外国人労働者側からは賛同されない意見だろう。)

たしかに技能実習生は令和4年では約9,000人が失踪している。しかし、なぜ技能実習が失踪するのかというと、転職が禁止だからである。実際に2019年にスタートした特定技能では外国人の失踪はほぼ発生していない。職場が嫌なら転職すればいいからである。闇夜に紛れて失踪なんてアウトローなことをする必要がない。

では、特定技能では失踪はほぼ無いとしても、転職は頻発しているのだろうか。実は当社が支援している特定技能外国人ではほとんど転職は発生していない。1年以内に退職する特定技能外国人は5%もいないのではないだろうか。当社だけではなく全国的にも特定技能の転職率は随分と低いと思う。少なくとも日本人の方がよほど転職率は高いだろう。

つまり、「単純労働分野で外国人の転職を自由にしたらどうなるか」という社会実験はすでに実証されているのである。結果として労働市場が混乱するような事態は起こらなかった。少なくとも今のところは起こっていない。おそらく育成就労が始まっても大丈夫だろう。

なぜ、特定技能では転職が頻発しなかったのか

特定技能の外国人が日本に来る目的はお金を稼ぐためである。日本でお金を稼いで母国の家族に少しでも多く送金したい。みんな頑張って働いて、生活を切り詰めて、実際に毎月まとまった金額を家族に送金している。お金に対する意識は高い。それなのに、なぜ高い給与を求めて次から次へと転職しないのか。

転職が頻発しない理由は色々あると思うが、一つはビザ制度上の制限があるからだろう。具体的には特定技能で転職するためには、A社からB社に転職するごとにビザ申請が必要となる。ビザは申請してから許可が出るまで数カ月かかる。ビザが無くなると日本に滞在できなくなるので、外国人にとってビザの取り直しは不安を感じるものである。つまり特定技能はそう簡単に転職出来ない仕組みになっているのだ。育成就労でも同じ仕組みが導入されるだろう。

転職が頻発しない二つ目の理由は、転職を繰り返している外国人を好んで採用する日本企業はいないということだろう。特定技能の外国人を雇う時には、ビザ手続きの費用や人材会社への手数料も発生する。何度も転職を繰り返してすぐに転職しそうな外国人にお金をかけて採用するのは避けたいと思うのは当然である。結局、ジョブホッパーは市場価値が下がり、いずれ転職できなくなる。日本人と同じである。

その他に、特定技能の外国人としても、ブローカー経由で転職すると多額の手数料を取られることが多いし、引っ越し費用や人脈の作り直しなどを考えると、「多少不満はあるけど、転職も面倒なので今の職場でいいや」という結論になることも多いと思う。

育成就労は特定技能よりもさらに転職制限がかけられる予定である。勤務年数とか日本語要件とか、様々な制限がかかる予定である。やはり育成就労が始まっても労働市場が混乱するような事態にはならないだろう。

地方の本当の課題は、外国人の定着ではなく採用である

それよりも地方の企業が本当に心配しなければならないのは、外国人の定着よりも採用である。今まで同様に外国人労働者を採用することが出来なくなるのではないか、という心配である。まさに定着以前の問題である。

この10年で技能実習生の主役は中国からベトナムに変わり、最近はインドネシアが急増している。ミャンマーやカンボジアなども増えている。新興国が力をつけてきたというより、中国やベトナムからの採用が難しくなってきたから他の国から採用するようになったというのが大きな流れだろう。

建設や介護の職種では外国人の採用が難しくなってきたという話しをよく聞く。以前は10代から20代が中心だったのに最近は30代から40代の人しか集まらないとか、必要な給与もどんどん高くなってきているという話もよく聞く。特に地方の企業では急速に外国人の採用が難しくなってきている。

以前はそんなことはなかった。技能実習では最低賃金レベルの求人さえあれば、中国やベトナムでも応募者が殺到した。北海道の最北端でも離島でも、職種を問わず応募者を集めることが出来た。今はそんなことはあり得ない。つまり外国人採用は急速に売り手市場になってきているのである。選ぶ側から選ばれる側になってきているのだ。この影響は地方で深刻に現れてきている。

では、地方の企業や自治体は何をすればいいのか。売り手市場で人材を採用するためには、企業は、賃金を上げる、自社を魅力的にアピールする、受入体制を整備するなど、やるべきことは沢山ある。どこの国から採用するのか、どの在留資格で採用するのか、どの人材会社に採用を依頼するのか、採用計画をしっかり立てる必要もある。

自治体も、統計から外国人労働者の流れを分析し、どこの国の人が増えているのか、特定技能の普及は他地域に比べて遅れていないか、地元企業と特定の監理団体が癒着していないか、など、まずは現状の把握をしなければならない。地域の外国人労働者の課題をちゃんと捉えて、どんな支援をして、どんな効果を狙っていくか、しっかり計画を立てる必要がある。

このままだと地方に外国人労働者は来なくなる。企業の自治体も強い危機感を持ってこの課題に取り組む必要がある。

▼(参考コラム)北海道と外国人採用のこれから 2024.6.14
https://www.careerbank-itnl.jp/hokkaido-gaikokujin/

キャリアバンク株式会社
執行役員 海外事業部 部長
水田充彦

行政書士/社会保険労務士/日本語教師 有資格者。
外国人の採用・定着支援や自治体の多文化共生支援を専門とする。日本全国で外国人採用関連のセミナーを100回以上実施し、地域の外国人雇用の現状に精通。アジア圏を中心に50回以上の海外渡航歴があり、現地の送出機関や教育機関と豊富なネットワークを持つ。