~外国人雇用の現場から~Vol.7 外国人労働者の送出し国を選ぶポイントは?
外国人労働者の送出し国を選ぶポイントは?
最近、インドネシア人の労働者が増えてきたという話をよく聞きます。当社が支援している特定技能生もベトナム、ミャンマー、ネパール、スリランカなど色んな国の人がいますが、実は一番多いのはインドネシアです。
企業からも「どこの国の人を受け入れるのがいいのか」という質問をよく受けます。外国人の日本語能力やスキル、採用に係る費用など、何を基準にして送出し国を検討すればいいのか。色んな要素があって難しい問題です。
では、既に外国人を受け入れている企業はどうやって送出し国を決めたのか。ほとんどの企業は採用の仲介を任せる監理団体や登録支援機関の薦めるままに決めていると思います。「ベトナムがいい」と言われればベトナム、「インドネシアがいい」と言われればインドネシア、といった感じです。まあ、信頼できる仲介会社であればそれでいいと思います。
ただ、外国人をいったん受け入れると少なくとも数年の付き合いにはなります。こんな国だとは知らなかったとなれば企業にとっても外国人にとっても不幸なことです。そんなことにならないように今回は外国人労働者の送出し国を決めるポイントについて書いていきたいと思います。
送出し国を検討するポイントはいくつかありますが、代表的なところを見ていきたいと思います。まずは最近のトレンドというか実際に日本で働いている人数、次に募集のしやすさ、送出し国の安定性といった点を見ていきます。
〇日本で働いている人数
技能実習と特定技能でも一番多いのはベトナムです。圧倒的に多いです。
技能実習生全体で約40万人(令和5年末)の中で、ベトナム約20万人(50.2%)、インドネシア約7.4万人(18.4%)、フィリピン約3.6万人(8.9%)の順となっており、この3か国で全体の77.5%を占めています。特定技能生全体で約25万人(令和6年6月)の中でも、ベトナム約12.5万人(約50%)、インドネシア約4.4万人(約18%)、フィリピン約2.5万人(約10%)の順となっており、この3か国で全体の約78%を占めています。
人数をたくさん送り出しているということはそれだけ経験があるということなので安心材料になります。実際に色んな国の送出し機関を見てきましたが、やっぱりベトナムの送出機関の教育体制やビザなどの書類作成体制はしっかりしている印象があります。
では、送出し経験が豊富なベトナムでいいじゃないと思われるかもしれませんが、地方では「ベトナム離れ」が起こっています。なぜなのか。
〇募集のしやすさ
実は技能実習でベトナムが急増したのは10年少し前からです。それ以前は技能実習生と言えばほぼ中国人でした。でも、ある時点から中国での人材募集が難しくなりました。理由は中国国内の給与が上がり、わざわざ日本に出稼ぎに来る必要が無くなってきたからです。
同じような理由でベトナムでの人材募集が以前よりも難しくなってきていると言われています。実際に以前はベトナムで募集をすると、求人人数の何倍もの応募者が集まっていましたが、最近は求人人数すら集まらないということが起こっています。
ただ、ベトナムで募集が難しくなってきたのは国内の経済発展という理由だけではなく、そもそも日本の求人数が増えたとか、台湾や韓国など他の国へ働きに行く人が増えたなど様々な要素があります。いずれにしても海外の人材確保もどんどん売り手市場になっていっています。
それでは人材の募集がスムーズにいく国はどこかというと、最近ではインドネシアとかミャンマーが増えてきています。特にミャンマーは国内環境が落ち着かないということもあり、とにかく国外に脱出したいという人が多く、海外就労に積極的です。
特定技能の試験の実施規模も、例えば2024年5月の特定技能介護の技能試験の合格者は全体が2,918人、そのうち日本国内での合格者が565人なのに対して、海外はミャンマー1,415人、インドネシア373人、ネパール199人、スリランカ85人とミャンマーの合格者が圧倒的に多いです。
それでは海外も売り手市場に変わっていく中で、募集がしやすいミャンマーから受け入れれば、今後の人材採用は安心なのかというと、そうとも限りません。
〇送出し国の安定性 先日、技能実習生の失踪者数の発表があり、2023年は9,753人が職場から失踪してしまったようです。全技能実習生の1.9%です。
引用:出入国管理庁
国別に見ると、一番「失踪人数」が多いのはベトナムで5,481人ですが、そもそも技能実習生の半分以上がベトナムなので仕方がないかなと思います。それよりも今回はミャンマーが「失踪率」で不名誉な1番になっています(今まではカンボジアが失踪率NO.1でした)。
ミャンマーが失踪率1番になった理由は、失踪して見つかっても強制送還されない特別なビザが出来たこと(2024年10月修正)や日本国内でミャンマー人の失踪を手助けするブローカーが増えたことなどがありますが、いずれにしても不安定です。
スリランカも海外就労の意欲が高い人が多いですが2022年に経済破綻していますし、その他の国でも送出し機関と政府の癒着や賄賂文化など、安定的な人材採用を考えるのであれば送出し国の安定性を見極める必要があります。
ただ、この分野は見極めるのが難しいですね。仲介会社は推薦する送出し国の良い情報は伝えますが、悪い情報はあまり伝えないので。やはり、信頼できる仲介会社と付き合うのが大切です。
その他にも送出し国の文化の近さも検討材料の一つです。最近増えているインドネシアはイスラム教徒の人が9割を占める国なので、食べ物やお祈り、女性の服装などの慣習が日本とは大きく違います。フィリピンはキリスト教、ネパールはヒンドゥー教が中心の国です。
彼らの文化や慣習を職場や生活面でどの程度受け入れることが出来るのか、しっかりと検討したうえで外国人を採用する必要があります。
今回は送出し国を選定するポイントについて書きましたが、結局は信頼できる仲介会社を見つけることが何より大切です。海外のことを受入れ企業の皆さんが全て把握するのは難しいです。 機会があれば、信頼できる仲介会社を見つける方法などについてコラムを書いてみたいと思います(キャリアバンクがいいですよ、というアピールになるかもしれませんが)。
キャリアバンク株式会社
取締役 海外事業部 部長
水田充彦
行政書士/社会保険労務士/日本語教師 有資格者。
外国人の採用・定着支援や自治体の多文化共生支援を専門とする。日本全国で外国人採用関連のセミナーを200回以上実施し、地域の外国人雇用の現状に精通。アジア圏を中心に50回以上の海外渡航歴があり、現地の送出機関や教育機関と豊富なネットワークを持つ。