≪NEW≫ ~外国人雇用の現場から~Vol.12 「やさしい日本語」、使っていますか?
「やさしい日本語」、使っていますか?
「やさしい日本語」という言葉を聞いたことがありますか?
簡単に言うと、「外国人と話すときには、彼らが分かりやすい日本語で話しましょう」というコミュニケーション技法です。
例えば、「この用紙に氏名を記入して下さい」というメッセージは日本語能力初級の外国人には難しいです。そうではなく「この紙に名前を書いてください」と伝えるのです。「用紙ではなく紙」、「氏名ではなく名前」、「記入ではなく書く」という様に、難しい言葉を簡単な言葉に置き換えるだけで、外国人にとっては随分と分かりやすくなります。
これが代表的な「やさしい日本語」のテクニックです。
「やさしい日本語」は全国で自治体を中心に普及活動が活発に行われ、私もこれまでに数多く「やさしい日本語」のセミナー講師をしました。多くの方の積極的な活動の結果、最近では日本社会に「やさしい日本語」が浸透しているように感じます。こうして日本が多文化共生社会に一歩一歩、近づいていると実感することができて、嬉しい限りです。
そもそも、「やさしい日本語」というコミュニケーション技法はいつ頃から広がっていったのでしょうか。遡ると1990年の入管法改正以降、中国や朝鮮半島出身者以外に全国でブラジル人など南米出身の外国人が増えていき、急速に日本に住む外国人が多国籍化していきました。
その矢先の1995年に阪神淡路大震災が起こり、多国籍の外国人住民にどの言語で避難指示を出せばいいのか、大きな課題を突き付けられました。兵庫県で生まれ育った私は当時高校生でしたが、スマートフォンもSNSも無い時代で、混乱のさなか、何が起こっているのか、震源地はどこなのか、どうすればいいのか、正確な情報収集に苦労したことをよく覚えています。外国人住民の方は尚更だったと思います。たしかに「余震に備えなさい」とか「避難所は○○だ」、「津波が来るから高台に避難して」という災害時の日本語は外国人には難しいです。
日本人は「外国人なら英語は通じる」と思いがちですが、それは大きな誤解です。ブラジルの母国語はポルトガル語ですし、最近日本で増えているベトナム人やインドネシア人にも基本的に英語は通じません。多国籍な外国人に情報を伝えたいときに、全ての言語で情報を発信するのも大変です。ではどうしたらいいのかと検討した結果、実は「簡単な(やさしい)日本語」が一番多くの外国人に伝わるのではないかということで、弘前大学の佐藤和之名誉教授を中心に研究が始まりました。
前置きが長くなりましたが、「やさしい日本語」の具体的なテクニックはいくつかあります。先に述べた「簡単な言葉を使う」だけではなく、「文を出来るだけ短くする」、「主語、述語、目的語をハッキリする」、「ドンドンとか擬声語、擬態語は分かりにくいので気を付ける」などです。これらに気を付けるだけで、外国人とのコミュニケーションが一気にスムーズになります。
<参考>:文化庁:在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン ほか
ただし、「やさしい日本語」で大事なのはテクニックではありません。「相手に合わせる姿勢」が何より大事です。
幼稚園児に先生が難しい言葉で演説しても通じませんし、新入社員に社長が難解な経営論を説いても伝わりません。相手に合わせて言葉を選び、話し方も調整するのです。この姿勢が外国人と話をする時にも求められることなのです。
外国人の日本語レベルは様々で、相手がどのくらい日本語を理解できるかは実際に話してみないと分かりません。日本語で話してみて、通じない言葉があれば他の言葉で伝えてみる。相手の表情を見ながら、自分の日本語を理解してくれているかどうか確認する。高度なテクニックは要りません。「相手に合わせる姿勢」があれば必ず「やさしい日本語」は伝わります。
そして「やさしい日本語」のプロは日本語教師です。私は札幌と佐賀で日本語学校を運営しておりますが、学校の先生と留学生のやり取りを見ていると「やはりプロの技法は凄いな」といつも感心します。外国人の日本語能力を伸ばす専門家なので当然かもしれませんが、やはり上手いです。
ベテランの日本語教師は外国人と少し話をしただけで、彼らの日本語能力やこれまでの学習歴を把握することが出来ます。そして、外国人の日本語能力に合わせた言葉のコントロールや、彼らが理解しやすい文法で話をすることが出来ます。日本語教師ならではのマニアックなテクニックもあります。
例えば、日本語初級の外国人に「ここでご飯を食べちゃ駄目だよ」と伝えるときには、日本語教師なら「ここでご飯を食べます、駄目です」と伝えます。日本人からするとむしろ分かりにくく感じるかもしれませんが、日本語初級の外国人の場合は「です、ます調」の方が意味を理解しやすいのです。
いずれにしても外国人と話すときは「やさしい日本語」を心掛けてください。日本語がとても上手な外国人でも、意外とこちらの話が通じていないことが多々あります。小さな誤解が大きなトラブルになることがあります。
「やさしい日本語」の基本的なテクニックを学び、積極的に外国人に話しかけてみてください。相手に合わせる姿勢を忘れずに、あとは実践あるのみです。
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キャリアバンク株式会社
取締役 海外事業部 部長
水田充彦
行政書士/社会保険労務士/日本語教師 有資格者。
外国人の採用・定着支援や自治体の多文化共生支援を専門とする。日本全国で外国人採用関連のセミナーを200回以上実施し、地域の外国人雇用の現状に精通。アジア圏を中心に50回以上の海外渡航歴があり、現地の送出機関や教育機関と豊富なネットワークを持つ。