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 ~外国人雇用の現場から~Vol.9 日本が選ばれるためには

日本が選ばれるためには

最近、「日本はもうすぐ外国人労働者から選ばれなくなるのでは」という不安の声をよく聞きます。

ちょうどコロナ前くらいからこの話題が増えてきました。背景としては、技能実習生の大半を占めているベトナムでの人材採用が急に難しくなってきたからでしょう。その代わりにインドネシアやミャンマーの技能実習生が増えてきましたが、こういった流れの中で、このままだと日本に来てくれる外国人がいなくなってしまうと多くの方が危惧しています。

海外で人材募集を担当する送出機関からも同じような意見を聞きます。日本は円安だし残業規制も厳しくなって稼げない、最近はもっと稼げる韓国とか欧米で働くことを希望する人が多いと。

【参考】:「~外国人雇用の現場から~Vol.2 ベトナム出張レポート」2024.4.15

確かに日本は働き先として「選ばれない国」になってきているのかもしれません。

ただ、このテーマが議論される時に「欧米は賃金が高いから外国人労働者はそのうち日本には来てくれなくなる」という単純化された課題になってしまっている気がします。まずは「日本はどんな国として選ばれたいのか」というビジョンをしっかり持つことが大切だと思います。

出稼ぎ国として選ばれたいのか、学ぶことが出来る国として選ばれたいのか、住んでみたい国として選ばれたいのか。

もし日本が「出稼ぎ国として選ばれたい、とにかく海外から労働者の数を集めたい」というのであれば、対策は簡単です。入管法等を改正して入国のハードルを下げれば、単純労働分野の外国人はたくさん日本に来てくれます。

ただ、日本政府は外国人労働者をかき集めようとする政策をとっていません。高度なスキルを持った外国人の受入れには積極的ですが、単純労働分野の外国人受入れはむしろ消極的です。技能実習や特定技能外国人には日本語学習や技能試験、在留期間を制限するなどのハードルを設けています。

もちろん入管がこのようなハードルを設けているには理由があります。言語や文化の違う外国人の受け入れによって日本の企業や地域が混乱しない為とか、来日後に外国人自身が困ることにならない為になど、入管は総合的な見地からこうしたハードルや制度を設けています。

実際にベトナムやインドネシアの人が日本以外の海外就労において深刻な人権侵害や不法就労などの様々なトラブルに巻き込まれていると聞きます。私は現行の日本のハードルや支援体制は適正じゃないかと思っております。

もちろん、稼ぐ目的で日本に来ている外国人労働者はたくさんいます。そういった外国人にもっと来てもらうためには給与を高くするのが効果的です。しかし、日本の企業は多文化共生や国際化推進のために外国人を雇用しているのではありません。あくまで自社の売上や利益を出す為の経済活動として外国人を採用しているのです。やみくもに給与を上げられるはずもありません。

やはり日本が「選ばれる国」としてあるためには「出稼ぎの国」以外の魅力を強化していく必要があります。

日本にはどんな魅力があるのでしょうか。

海外の送り出し機関や日本で働いている外国人に日本で働く魅力を聞くと「他の海外就労先に比べて日本で働くのは安心だ」と言っていただくことがよくあります。

確かに以前は日本の技能実習制度で多額の借金問題や職場での人権侵害問題などがありました。でも今は随分と改善されたと感じます。さらに2019年に特定技能制度がスタートして外国人の適正な受入れや支援体制はますます改善したと思います。

日本は外国人労働者の受入れで他国よりも「安心」というブランドがあります。この魅力をさらに強化して発信していきたいですね。

また、この他にも日本にはたくさん魅力があると思います。社会保障やインフラ、教育システムや民主主義、規律の正しさや清潔さなど、外国人が日本で生活したいと思ってもらえる魅力はたくさんあると思います。

地方の企業や自治体が、「外国人はすぐに東京に転職してしまう。このままだと地方に外国人が来なくなってしまう。」と嘆いているのをよく聞きます。これも課題の本質は同じだと思います。地方にありながらも「どんな企業として選んで欲しいか」「どんな地域として選んで欲しいか」というビジョンをしっかり考えることが大切だと思います。

それに東京都内でも外国人の転職は大きな課題です。むしろ東京の方が好条件の企業がひしめき合っているので外国人の転職の頻度は高いかもしれません。

くれぐれも「東京は賃金が高いから地方から人材が流れてしまう」「転職出来ない技能実習を維持して欲しい」といった思考停止に陥らないように注意が必要です。そんな地域にはそのうち海外から人材が来てくれなくなってしまうと思います。

例えばキャリアバンクの本社がある北海道なら「北海道を満喫しながら働く」というテーマを決めて、外国人労働者の公共交通機関の移動費とかスキーのレンタル代の一部を行政が負担するとか、北海道の季節ごとの観光スポットを北海道在住外国人向けにアピールするとか、賃金以外にも北海道に住みたい魅力はたくさんあるはずです。 繰り返しますが、外国人労働者から「日本はどんな国として選ばれたいのか」、「どんな地域として選ばれたいのか」をしっかり考えることがまずは大切だと思います。

 

キャリアバンク株式会社
取締役 海外事業部 部長
水田充彦

行政書士/社会保険労務士/日本語教師 有資格者。
外国人の採用・定着支援や自治体の多文化共生支援を専門とする。日本全国で外国人採用関連のセミナーを200回以上実施し、地域の外国人雇用の現状に精通。アジア圏を中心に50回以上の海外渡航歴があり、現地の送出機関や教育機関と豊富なネットワークを持つ。