~外国人雇用の現場から~Vol.2 ベトナム出張レポート
2024年4月15日
ベトナム出張レポート
40℃超え!ベトナムはやっぱり暑かった
4月末、久しぶりにベトナムに出張してきた。2020年1月以来、4年ぶりのベトナムだった。ハノイ市街では相変わらずバイクが縦横無尽に走り回っているし、日中は気温40℃を超え、5分程外を歩いただけで倒れてしまいそうな暑さだった。
パッと見た感じでは以前とあまり変わらないような風景だったが、やはり4年分の変化はあった。タクシーは配車アプリ「Grab」が一気に普及して便利になっていたし、ベトナム初の国産車「VINFAST」もたくさん走っていた。市街には都市鉄道が2021年から開通し、道路わきで果物を売っている露店ではQRコード決済が出来るようになっていた。いつもながら変化の早さに驚かされる。
今回のベトナム出張ではハノイを中心に3日間で11社に訪問してきた。以前から付き合いのある技能実習や特定技能の送出機関、日本語教育機関、留学斡旋エージェントやエンジニアを養成する大学などである。久しぶりの再会をお互いに喜びながら、様々な情報交換をしてきた。
日本の労働現場ではベトナム人離れが進んでいる!?
最近、日本全国でベトナム人の技能実習離れが話題になっている。技能実習だけではなく、特定技能や留学でもベトナム人離れの話は地方を中心によく聞く。自治体も地域の安定的な労働者確保のためにベトナムと関係を強化しようという動きがコロナ禍前はあったが、最近は自治体もインドネシアへのアピールに熱心なようだ。
ただ、現時点では日本で働く外国人はベトナム人がまだまだ圧倒的に多い。技能実習生全体358,159人中、ベトナム人は185,563人と51.8%を占める。特定技能外国人も全体173,101人中、ベトナム人は97,490人と56.3%を占める。コロナ禍で統計の流れが分断されて分かりづらいが、日本におけるベトナム人労働者は減ってはいない。むしろ増え続けている。
ただ、それ以上にインドネシアやミャンマー、ネパールからの労働者が急激に増えているので、あたかもベトナム人労働者が減ってきたように感じるのかもしれない。しかし、これは日本全体の総数の話である。地方では明らかにベトナム人離れが進んでいる。
実際にキャリアバンクが支援する特定技能外国人も半数くらいがインドネシア人である。また、当社が運営する札幌と佐賀の日本語学校の学生もこの3年間でベトナム人の数がめっきり減った。代わりに増えたのはネパール人やミャンマー人などの学生である。コロナの前後で大きく流れが変わったのは間違いない。
出展:厚生労働省 令和5年10月末
円安で働き先として日本以外が人気?韓国が一番人気?
急激な円安の影響もあって最近はこの話題が新聞でもよく見られる。日本はもはや選ばれない国なのだろうか。
Dolab(ベトナム海外労働管理局)の2023年の統計によると、海外で働くベトナム人は合計650,000人、1位は日本300,000人、2位は台湾250,000人、そして3位は韓国で50,000人らしい。韓国と日本では随分と差がある。また、海外で学ぶベトナム人留学生は合計200,000人で、1位は日本で38,000人、2位は韓国で37,500人、3位はオーストラリアで30,000人のようだ。留学生では韓国と日本は同じくらいだ。
ベトナムの日本語学校の様子
日本語の学習だけではなく、文化までしっかりと教育されている
ベトナムで色んな方から聞いた話をまとめると、下記のような感じである。
・日本よりも韓国の方が就労や留学でも人気。
・人気の理由は稼げるから(韓国は法規制が緩いから長時間労働が可能)。
・留学生も日本のように労働規制が厳しくないから稼げる。
・職場や教育機関からの失踪率は30%以上。日本のベトナム人技能実習生失踪率2%。
・ベトナム人の就労受入人数は韓国の政府が決める。毎年変動するが少ない。
・韓国でもベトナム人留学生の失踪は問題になっており、最近はビザの許可が難しい。
どうも韓国が選ばれるのは文化的な憧れとかよりも、単に法規制がザルで非合法に稼げるから人気なのだという印象を受ける。日本が働き先として選ばれる国になる必要はあるが、無秩序に受け入れるわけにはいかない。アクセルとブレーキのバランスが肝要である。
また、台湾で働くベトナム人が多いのは台湾就労のハードルが低いからである。日本の技能実習のように数カ月の事前研修の必要もないし、労働者が支払う手数料も安い。40代でも50代でも働きにいける。
国境を越えて働きにいく労働者は、➀賃金の高さ、②ビザ取得の難しさ、③求められる言語能力、④必要なお金、⑤文化的な違い、⑤現実的な距離などが就労国を決める要素となる。
例えば、どうしてベトナム人が給与の高いアメリカにもっと行かないのか。それは、ベトナム人がアメリカで就労ビザを取得するのは非常に困難だからだ。どうして多くのインドネシア人が中東で働くのか。それは同じイスラム圏であり文化的背景が近いからである。日本が選ばれる国になるためには多面的な取り組みが必要である。
ベトナム現地での食事風景
地元の食材を使用した美味しい料理をいただいた
今後もベトナム人は日本に来てくれるのか?
今回の出張で、「ベトナムでは以前よりも人材の募集は難しくなっているな」と改めて感じた。
円安やSNSの普及、ベトナム国内の賃金上昇、日本以外の外国の受入れ拡大など様々な要素があると思う。特に北海道や東北、その他に最賃が低い地域はベトナム人の採用がますます困難になるだろう。
もちろん、ベトナム人にとって日本で働くなら東京か大阪を希望する気持ちはよく分かる。もし自分もアメリカで働くならNYがいいしフランスならパリがいい。イギリスならロンドン、中国なら上海か北京がいい。せっかく海外で働くなら、その国を代表する都市で働きたいと思うのは自然なことだ。
以前はベトナム人にとって日本で働くチャンスは少なかった。そのため日本に行けるのなら場所や給与はそんなにこだわらないという人も多かった。しかし今では東京や大阪は求人で溢れ、スマートフォンやSNSを通じで簡単に情報を得られる。今後もベトナム人の採用は難しくなる一方だが、これは日本が選ばれる国であり続けるためのチャンスでもある。
他の国の人はどうか。今はインドネシア人やカンボジア人にとって日本で働くチャンスはまだ少ない。そのため、地方でも来てくれる人はいる。でもいずれはベトナムと同じ流れになるだろう。これを見越して、スリランカ、キルギス、ラオス、色んな国からの受入れも始まっているが、これには限界がある。
やはり、根本的に選ばれる地域や会社になることが重要だ。多くの外国人が東京や大阪で働きたいという前提を受け止め、就労条件や生活環境を改善していく必要がある。外国人採用は急速に買い手市場から労働者優位の売り手市場に変化している。この現実から目を背けてはいけない。
余談になるが、未だに送出機関からキックバックをもらっている日本の監理団体や受入れ企業が結構あるらしい。しかも他の国に切り替える時にも日本側からこの悪い慣習を要求しているケースもあるようだ。技能実習に関する諸々の問題は「日本企業と監理団体の倫理観の欠如」と「海外送出機関の儲けたいという過度なモチベーション」が大きな要因だと思っているが、こうした問題を解決することで、日本はさらに選ばれる国になるチャンスを迎えるだろう。
キャリアバンク株式会社
執行役員 海外事業部 部長
水田充彦
行政書士/社会保険労務士/日本語教師 有資格者。
外国人の採用・定着支援や自治体の多文化共生支援を専門とする。日本全国で外国人採用関連のセミナーを100回以上実施し、地域の外国人雇用の現状に精通。アジア圏を中心に50回以上の海外渡航歴があり、現地の送出機関や教育機関と豊富なネットワークを持つ。